ランドマークオカヤマ

個人的な記憶の道標

後楽園

式は身内だけで済ませるという新婚夫婦の写真撮影に呼ばれて後楽園に行った。

平日の昼間ということで親類と数名の友人だけで、

夫婦の他にぼくが知った顔はなかった。

園内を連れ立ってぞろぞろ歩き、

カメラマンの言うとおりに立ち止まってはポーズをとる夫婦を手持ち無沙汰で眺める。

天気のいい日で和装の夫婦は暑そうだった。

ぼくは自分で切った髪の毛のことをずっと気にしていた。

後楽園を一周して撮影が終り、ぼくらは何ということもなく別れた。

西大寺駅

「家帰っても嫁も子供も待ってねーんだよ。
待ってるのは犬だけだよ、犬はいいよ。
ちょっとこの写メ見てくれよ」
「なんだよこれ?」
「猫だよ、西表島の」
イリオモテヤマネコかよ」
「いや、ただの猫だ」
「おれは対馬に行ったことあるぞ」
対馬にもツシマヤマネコいるよな」
「ああ、茂みがガサガサいうと思ったら・・・」
「イノシシだよそりゃ」
「ちがうよ、ありゃ猫だった」
「じゃあ、猫に似たイノシシだよ」

ふたりのおじさんはそんな会話をしながら深夜の西大寺駅で降りて行った。

 

ONSAYA 問屋町店

大野辻の交差点。

 自転車ふたり乗りしておまわりさんに怒られた。

焼肉食べて、カフェに行って、

よしえの家まで、今度はのんびり自転車を押しながら帰った。

車通りも少なくなって、おまわりさんもいなかったけど、

まるい月が出ていた。

へべれけがじがじ

ほろ酔いマンションと呼ばれるビルがあって、

一階に、へべれけがじがじ という名前の飲み屋が入っている。

そこの店主が、ガジ君である。

・・・・以上のような前情報を踏まえていないとどうなるか?

という話である。

大阪からの友達を招いてホームパーティーをしていたときのこと。

なんの話の流れだったか、まさおが、

「へべれけのガジが~」

と言い出した。

大阪の友達はそれに反応して、

「なんやそれ、すごい通り名やな!」

と声をあげる。

へべれけのガジ

たしかに事情を知らない者にとっては、

片目のヤス

とか、

韋駄天のタツ

みたいなものである。

しかも、

へべれけのガジ

は、

ほろ酔いマンション

にいるのだ。

もはやほろ酔いなのかべろ酔いなのか分からない。

ぼくがこの間店に行った時には、

カウンターの椅子ふたつ使って寝ていたので後者であったが。

 

黒島

2015年の牛窓ナチュラルキャンプ。

浜辺に建てたティピのなかに畳を敷いていたり、

森の奥にはハンモックを吊るして、

椅子が並べられていたり、

お客さんがくつろげるスペースがたくさん用意されていた。

「こんなにサービスしても、どうせクソみてーな野郎が寝るだけなんじゃけえ、

もったいねえよな」

「そうよな。こんなところで寝るのはクソ野郎に違いねえな」

そんな話をした匠はその夜ティピのなかで、

ぼくは森の椅子で、

まんまと寝た。

邑久町役場前

次のバス停には人が待っていませんように と、

祈りながら歩く。

誰か待っている人がいると、

なにくわぬふりをして前を通り過ぎる。

運良く誰もいないバス停にたどり着いても、

遠くからやってくるバスの車内に人影が見えると、

恐ろしくなって、

こそこそとその場を離れる。

どこに座っていいのか、

どこに視線をやればいいのか、

分からないのだ。

バス停からバス停へ・・・

そうやって3時間もかかって歩いて帰ったことが何度かあった。